UECSとは、ユビキタス環境制御システム(Ubiquitous Environment Control System)の頭文字を表し、「ウエックス」と読みます。植物を生産するためのガラス室・ハウス(温室)、植物工場などに利用されるセンサや環境制御装置の通信と動作方法を定めた共通規格であり、温室のモニタリングや複合環境制御を実現する手段です。UECSは温室内の様々な装置が相互に共通の方法で通信することで協調動作できるようにします。その仕様はUECS研究会が公開しており、UECS対応機であれば装置の製造メーカーが異なっても同じ方法で通信することができます。
UECSでは温室内の様々な装置をLANに接続し、ネットワークを形成します。ネットワークを構成する個々の装置をノードと呼びます。個々のノードは規約に決められた書式でCCMと呼ばれる情報を発信します。多くの場合、CCMは一定時間おき(1秒間隔,10秒間隔,1分間隔など)に送信されます。CCMはLANに接続されたすべてのノードに到達するという性質があります。1対多の通信を行うのがUECSの特徴です。CCMには情報の意味(type)と伝達範囲を指定するタグ(room, region, order)が付与されています。情報の取捨選択は受信した側がタグに基づいて行います。センサノードであれば、計測したセンサの値を定期送信し、制御ノードであれば、この値を受信して何らかの動作を行うことになります。また、ノードの種類により必ず実装すべきCCMが定められています。制御ノードは機器の制御状態を発信し、遠隔操作指令を受けた場合は応答する必要があります。LAN上にCCMを記録する装置を設置すれば、ネットワーク内を流通する情報(センサ情報および制御機器の動作情報など)のログが取れます。ネットワーク上に中継器を設置し収集したデータをUECS対応クラウド※1に送信することで遠隔地から情報を閲覧できます。
UECSを環境モニタリングに使うことで、例えば見回りの回数を減らして軽労化をはかったり、悪天候で温室に近づけないとき機器の動作状況をチェックしたり、深夜など人が行かない時間帯に環境がどうなっているか調べたりと、活用方法が豊富です。クラウドの警報メール機能を使えば、栽培上のトラブルを早期発見・対応でき、失敗のリスクを減らすことができます。UECS対応の複合環境制御装置※2を使えば、温室内の機器を協調動作させることができます。例えば、炭酸ガス施用やミストの動作を最適なタイミングで行うなどの制御が行えます。最初は環境モニタリングから始めて、その後、制御装置を増設するなど、無理のない投資で少しずつ機能を増やすことができます。UECSは多数の装置で構成された大規模施設も、少数の装置で構成された中小規模施設にもフレキシブルに対応することができます。
UECSの仕様や対応ソフトウェアが多数公開されています。さらに、UECSに対応したモニタリング装置や制御装置の自作方法も公開されています。これらの情報を活用すれば、低コストに調達できる自作機や無料のソフトウェアを使用できます。UECSは施設園芸向けソフトウェアを開発する上での共通のプラットフォームになり得ます。UECS対応センサは共通の形式でデータを出力するため、このデータを収集・分析する手法も共通化できます。また、UECS対応環境制御装置には特定の指令に応答する機能が備わっており、ある程度理解している方であれば、PCやマイコンを用いて遠隔操作することも可能です。装置に内蔵されていないアルゴリズムを追加・動作させたり、新しい環境制御手法を開発するのに向いています。こうように開発されたソフトウェアは、UECS対応装置が導入されている温室で活用できるため、UECSは施設園芸分野で開発された新しい研究成果を速やかに現場に普及させる手段になります。
UECSは広く普及したEthernetを使用して通信を行うため、既存のネットワークデバイスを活用できます。UECSはPCやマイコン、シングルボードコンピュータに実装できます。これは様々なICTベンダーが蓄積してきたネットワークやソフトウェアの技術を施設園芸にそのまま活かせることを意味します。施設園芸で高度な複合環境制御が行える温室の面積は全体のおよそ3%※4に留まっており、残りの4万ヘクタール以上の施設がフロンティアです。近年、施設現場では環境モニタリングや自動化、軽労化技術の需要が高まっており、UECSを活用したICT、IoT技術を普及させるビジネスチャンスでもあります。
※1 クラウドサービスの料金や対応している機能には各社で違いがあります。
※2 クラウド接続無しで運用可能な装置もあります。
※3 UECSの商標はUECS研究会が管理しております。UECSに対応した装置やソフトウェアを販売する場合はUECS研究会に入会しUECS-ID開発者番号の発行を受けて頂く必要があります。
※4 農林水産省 園芸用施設の設置等の状況(H30)より